音叉は英語で tuning fork というぐらいなので、基本的には調律に使うものです。調律に使うからには精度が重要になってきます。

誤差には(とりあえず)二種類考えられます。「標準状態(温度、圧力、etc)で基準周波数とどれだけずれているか」と「温度変化によってどれくらい周波数が変化するか」です。前者を基準誤差、後者を温度誤差と呼ぶことにしましょう。ちなみに理論的には圧力(≒周囲の気圧)によっても周波数が変化する可能性がありますが、人間が生活するような気圧範囲では多分気にしなくていいです。


物理的な音叉の基準誤差はピンキリのようで、「音叉 精度」や「音叉 誤差」などでググると 440Hz の音叉で数 Hz ずれていた、なんて話が見つかります(そんなんじゃ調律に使えないじゃん…)。もちろん、それなりのお値段のする音叉はちゃんとしていて、例えばニチオンの音叉は誤差 0.05Hz を謳っています。440Hz の音叉だとすると誤差 0.01% 程度ということになります。

一方温度誤差はどうかというと、ググってもなかなか情報が見つかりません。温度誤差は鋼やアルミのものは大きくステンレスのものは小さい(ついでに錆びないので錆による周波数の変化も無い)、という話はすぐ出てきますが、じゃあ具体的にどれくらいかを書いてあるページはなかなかありません。

で、まず見つかったのがなんと1934年のペーパー PDF。戦前じゃねーか! で、3ページ目にあるグラフを見ると、50Hz の音叉が 1℃ あたり 0.01Hz 程度変化することが分かります。0.02%/℃ ですね。ってこれ1℃変化するだけで前述の基準誤差より大きいじゃん…

ピアノ技術者さんのブログ記事を見ると、「音叉の持つもっと大きな欠点(中略)とは、温度変化に弱いことです」「同じ音叉でも、夏と冬では1Hz程度違ってきます」とあります。夏を30℃、冬を5℃と仮定すると 0.04Hz/℃ であり、440Hz の音叉の話をしていると仮定すると 0.01%/℃ 程度となります。ちなみにこの記事によれば、音叉の基準誤差を測る時の温度は20℃らしいです。


さてようやく本題。拙作の音叉アプリですが、こちらの精度はスマホに載っているオーディオデバイスのクロックの精度に全面的に依存します。クロックソースは水晶振動子かセラミック振動子あたりが使われるはずですが、価格差を考えると高級サウンドカードでもない限りオーディオデバイスに水晶は使わないでしょう。

村田製作所のセラミック振動子の製品情報を見ると、標準的なものは基準誤差 0.5%、温度誤差 0.001%/℃ で、精度の高いものだと基準誤差 0.1% の製品がある、という感じのようです。ということで、基準誤差は物理的な(結構なお値段のする)音叉の圧勝、温度誤差はセラミック振動子の圧勝です。ただ、物理的な音叉の方は、せっかく小さい基準誤差が大きな温度誤差によって台無しになっているとも言えます。これが水晶振動子になると基準誤差 0.001%、温度誤差 0.0001%/℃ になって、どちらも圧勝です。

私は物理的な音叉は持っていないのですが、試しに2台のデバイス(Galaxy Nexus と Nexus 5)で 440Hz を鳴らしてみたところ、0.05Hz (周期20秒)程度のうなりが観測されました。つまり両者のクロックには 0.01% 程度の差があるということになって、実際には割と精度は高いかもしれません。

なお、細かいことを言うと、音叉アプリには波形を計算するときに生ずる誤差というのもあるのですが、こちらは double で計算していて精度が10桁ぐらいは余裕であるので気にしなくても構いません。

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